2.サクラの花とミツバチ

植物観察、それは花や葉などを詳細に観察すること、それにはスケッチが一番

2.1 サクラの花の構造

 もうすぐサクラの花が咲きます。サクラの花を詳細に観察し、何か新しい発見をしましょう。花びらの数は5枚、花の中央に1本のメシベがあり、周りには30本ほどのオシベが並んでいます。オシベの先端には小さな黄色の袋のようなものがあります。それは葯(やく)と呼ばれ花粉が入っています。葯は細長い花糸で根元に伸び、メシベと一緒になっています。その先には見えないが大切な子房があります。

 

2.2 咲き始めの花

 咲き始めのサクラの花は、ほんのり白い色をしています。花弁だけでなく花糸も透き通るような美しい白い色です。そしてこの白い花には蜜がまだあると、花は昆虫に教えている、という話があります。

 花は受粉のために蜜を作り昆虫を誘います。蜜へ導く道は人には見えないですが、紫外線の見える昆虫には見えます。その道を花粉を付けた昆虫が入り込むと、花粉がメシベの花柱につき受粉します。

 

2.3 花が咲き数日が過ぎました

 花全体がピンクに変わっています。どこが変ったのかよ~く見ると、白から見事なピンクに変化しています。花糸は全体がピンク色に、花弁の根元は幾分ピンクになっています。これは萼の色が花びらを通して見えるようですが、それでもピンクに変わっています。

 この色の変化は、サクラの花が昆虫に「蜜はもうありませんヨ!」と教えているように感じられます。サクラの花はメルヘンの世界から、地球に訪れた美しい魔法の植物かも知れません。

 

2.4 沢山の花を調べてみましょう

 樹の高いところに咲く花、低いところに咲く花、日当たりのよい面や当たらない面など色々な場所で花は咲きます。場所ごとに咲いた花の色はどう違うでしょうか?丁寧に見ると高いところの花にピンクが多く、低く幹の影になった花の多くは白いのが多いようです。この違いは何でしょうか? 高いところの花は太陽の光が沢山当たり、そうでない場所の花は太陽の光の量が少ないように感じます。でも、花に群がる昆虫の数は高いところも低いところも、あまり差がないようにも見えますが。

 これだけで結論とするのはまだ早いのですが、色の違いは太陽の光が当たる量に関係がありそうです。光が多く当たるとピンクが多くなり、光が少ないと花は白いままのが多い。見たところそんな感じがします。これは植物と太陽の間に重大な関係、何かの秘密な隠されているのでしょうか。

2.5 なぜ花の色、花糸の色は変化するのか

 サクラの花の構造を図鑑で調べてみました。メシベとオシベの下には子房があり、子房の中には胚珠があります。受粉から種子や果実ができる順を追って考えてみると、まず昆虫が運んだ花粉がメシベの花柱につき受粉します。受粉すると花柱の中を花粉管が伸び、花粉の精細胞が子房の中の胚珠に入り、そこで花粉の精細胞と卵細胞が結合し、被子植物であるサクラはそこで受精します。そして成長すると胚珠は種子に、子房は果実になります。このようにサクラなどは種子を作って子孫を残します。したがって子房は植物にとって子孫を残すための最も大切な器官と言えます。ですから植物はできる限りの方法で、外からの害に耐えられるような構造に自らを作って防御しています。

2.6 太陽光の花に与える害と防御

 太陽光は植物にとって、必要不可欠なモノです。発芽から成長・結実などすべてについて、深く関係しています。太陽光には植物の生育に重要なエネルギーを供給しますが、太陽光に含まれる数%の紫外線が植物に大きな脅威でもあります。昆虫は花の蜜を求めて花を探します。そして花粉や蜜は昆虫にとって大切な餌になります。昆虫、例えばミツバチやチョウチョの目は視力が悪く小さいと見えません。そのために「あれは花だ!」と分かるよう、花は大集団になって咲き昆虫に見つけてもらいます。さらに花の香りを感じ昆虫はやっと花の周辺に到着できます。そしてさらに花は昆虫によく見えるように、花弁を紫外線で見えるようにし、さらに蜜のある場所へ蜜腺とか密点など、紫外線で見える道しるべを作って蜜に導きます。(バラ科のような被子植物では共通の機能のようです。)

 ところがこの紫外線は生物に大きな害を与えます。それは活性酸素を発生させ老化を促進したり、大きなエネルギーで細胞のDNAを破壊し遺伝子を壊したりします。ですから花は老化の防止にビタミンを作ったり、紫外線を遮り遺伝子が壊されないような対策を花の各部に持っています。その一つが花糸や花弁の色をピンクに変えて、その成分のアントシアンで紫外線を遮ぎる防御策です。

2.7 その他のバラ科の樹木の花糸

 バラ科は沢山の種類の樹木があります。身近にも多くの樹木がありますが、春の初めに咲く梅の花はあまり花糸の色は変化しません。種類によっては薄いピンクに変わりますが、梅の木の種類によって変化は多様です。また樹木の種類や、例えば子房の位置などで、花糸の変化する時期が異なります。なかでもズミは花弁が散った後に花糸をピンクに変えます。その理由は子房の位置が下なので、直射日光の侵入が難しく遅くても大丈夫なのでしょう。また特異な例ですが、ボケの花は蕾の時に緑色の花糸を持った種があります。花が咲けば直ぐに白から真紅に近いピンクに変わります。そしてまた緑色の花弁を持つサクラ、御衣黄(ぎょいこう)は期待に反して緑色の花糸から、色の変化する様子は全く見られませんでした。そしてまだまだ多くの変わった種もありますし、もっと丁寧に時間をかけて調べる必要を感じますが、そんな変化を調べてみると、日常気の付かない部分が沢山あることに気が付き、調べてみたいことがどんどん生まれます。それが楽しみに変化するようです。

2.8 最後に思うこと

  今回の調査についてサンプル数や調査回数が少なく、またピンクに変化する現象は観測結果だけを根拠に記述しました。科学的な評価をしていませんので、誤った結論にしてしまったかと思います。それでも植物観察の会で参加者に喜んでもらえる話としては優れた話だと思っています。多くの人が植物観察を楽しみ、自然の不思議さを通し自然の友人になって欲しいと願っています。